『そらごと申す大納言』読みました!

唐橋史『そらごと申す大納言』(Amazonページへリンク)

唐橋さんの新刊『そらごと申す大納言』を読みました。表題作の他に『雲を追う少年』という作品が収録されています。どちらも平安時代が舞台(後者はややそこからはみ出しますが)の短編です。前者は壮大でありつつもメルヘンで可愛らしい少女と祖父との物語、後者は苦しい時代の現実にそれぞれ立ち向かう少年達の物語……というところでしょうか。
余り言うとネタバレになってしまうのですが、あのね!もうね!さいこーなんですよ!!!(ボキャ貧)以下さいこー!な理由をつらつらと書きます。一応ストーリー上のネタバレは回避してます……が、キャラの事はあれこれ書いているので気になる方は読まない方が良いかもです。

『そらごと申す大納言』
まず、主人公の呉竹の君が可愛いです(唐突)
都の窮屈な暮らしや口さがない周囲からのあれこれにも負けず、健気に毎日を過ごすお母さん思いの女の子です……可愛い……。またそんな孫娘を見ていない様で良く見ている祖父、前大納言文行も、変わり者だけど優しいおじいちゃん。
ストーリーのメインは孫娘が変わり者のおじいちゃんの、嘘とも本当とも分からない不思議な冒険譚を聞いて……?という感じなのですが、最初は嘘と思っていたそれらが本当の力を持ち始める辺りが非常に引き込まれました。女の子の想像の世界のきらきらした美しさと、おじいちゃんの飄々とした懐の大きさとが相まって、壮大だけど可愛らしいお話だなあと思いました。
をたをたしい事を言いますが、おじいさんと幼女の組み合わせって単純にこう……ぐっとくるじゃないですか。おじいさんが孫娘を大切に思っているのが色んな処から感じられてね!孫娘も最後はおじいさんと離れがたく思った節もあり……その関係性ににまにまするのですよ……。また夢の中で一緒に冒険出来ると良いよね!と思いました。
唐橋さんは『ほら吹き男爵の冒険』と『竹取物語』をオマージュしたと紹介文やあとがきで仰っていますが、それより更に沢山のオマージュ……というか下敷きにしているものがある様に感じられて、古典や歴史を絡めた作品を書く事の面白さを感じました。このシーンはあの作品かも?ここはこれかな?と思って読むと、様々な古典が溶け合わさって、また違う一つの物語を作っている事に驚かされます。
例えば呉竹の君と玉枝の君は、それぞれ『源氏物語』の近江の君と玉鬘を連想させますし、文行の荒唐無稽な冒険譚は『千夜一夜物語』の中の『シンドバッドの冒険』や、日本の古典では『うつほ物語』なんかを想起させます。唐橋さんの作品を手掛かりに古典を読むのも楽しいだろうなあ~!と思います!!!!
ところで私はこの作品、『堤中納言物語』なんかの中にそっと紛れ込んで(?)いても良いんじゃないかと思いました。凄くそれっぽくないですか?私だったら紛れ込ませます(何)。そしておじいちゃんの若かりし頃の冒険譚(正に『シンドバッドの冒険』的なやつ)が読みたいです!!!!

『雲を追う少年』
素敵な平安メルヘンを読んだ後に割と重くて鬱展開な作品が来たので「おおお……」と思いました。『そらごと申す大納言』よりもぐっと中世の訪れを感じるものが滲み出ていて、そういう時代の雰囲気みたいなものを書ける唐橋さん……凄い……。と唸りました。
ちょっとした事(でもないですが)から人生が大きく隔たってしまう二人の稚児を書いた作品ですが、愛情に裏切られ続ける松若と、幸運にも健全な愛情を勝ち得た主人公との差に胸が苦しくなります。出自の違いなんて関係なくなる筈の乱世なのに、何故かその些細にして大きな違いが、彼等の運命をここまで違えた様にも感じられます。
二人の師の念生が、哀れなところもあるにしろ基本的に無自覚クズおじさんなのでちょっと怒りを覚えるのもポイントです(笑)お前には松若を育てる責任はなかったんかーい!と思ったり。そう思うと中世の寺院に於ける稚児(というか寺院そのもの)の負の面にもかなり迫った作品……と言えるかもしれません。
芸能というものが、社会からあぶれた人達の何かのセーフティネットだった事についても考えさせられました。それは芸を見る側も、芸を見せる側も、という事ですが。主人公がそうした芸能に救いを求めるキャラクターなのだとすれば、松若は飽くまで自分の父が成した様な偉業(と松若は信じていた訳ですが)を求めて大人になったと言える気がします。何を追いかけて二人は大人になったのか……と考える時、「雲を追う少年」という題が浮かんで来ます。行く雲の様に全国を巡り、芸を見せて回った主人公と、雲を物差しで計り、辛い現実を打破する様なパワーを求めた松若とでは、違う雲を追っていたのかもしれません。主人公が人の心を慰める美しい雲の流れを追っていたのなら、松若はやがて嵐を呼ぶ様な、大きく速い真黒な雲を追いかけ、計ろうとしていた様にも思います。
とか真面目に感想を書いたんですけど、要するに松若みたいなキャラが好きなので、松若あー!!!!と叫んでサイリウム(の代わりに三十センチの竹の物差し)を振りたいのが正直な気持ちです。松若を幸せにし隊。

そんな感じで……あの……私の萌え語りとか読むんだったら是非唐橋さんの作品を読んで下さい!!!他の作品もどれも素敵ですよ!!!バーコードで無料pdfが貰える『出雲残照』も素晴らしい作品です……!さあ読み終わった貴方はページ先頭のアマゾンページへGO!!!

(2017年6月14日)

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