『夕炎の人』落ち穂拾い

11/11の文学フリマ東京37、お疲れ様でした&ありがとうございました。
久しぶりの即売会参加でドキドキもしていたのですが、おかげさまでつつがなく終えることができました。

当日、スペースに来て下さった皆様ありがとうございました。周囲のサークルさんと比べて「どんな小説書いているかちょっと良く分からんな」って感じのところなのに(これは卑下ではなくて実際にそうなんですよ……)、立ち止まってくださる方がちらほらといるというのは嬉しいものです。
差し入れを下さった方もありがとうございました。美味しくもぐもぐしております。

さて、『夕炎の人』というやっぱりまた良く分からない本を作って刷ってしまいました。一言で「こういう小説です!」と言えないものばかりを作っている気がします。
ちょっと落ち穂拾い的なことを書いておくのも良いかしらと思ったので、ここにまとめました。要するに作者の力量不足の言い訳ですね。言い訳するのは格好悪いことなのだけれど、言い訳しないと本人も忘れていくので、言い訳をするだけした方が良いかもしれないなあ、なんて思ったので書いてみます。

そもそもこの物語は

瓊樹と未艾という人の物語を直接に書きたかったのだけれど、うんと長くなるし重たい話になりそうで、私の今の筆力では無理、と判断しました。そこで二人の十年後くらいの話が書けたら面白いかな、と思って書き始めたのが『夕炎の人』です。最初は瓊樹に焦点化した形で物語が進むバージョンを書いていたのですが、それをほぼ没にしてセッケムに焦点化先を移行し、完成させました。

北の陸地と南の陸地という二つの文化圏・言語圏のようなものが登場しますが、これも北の方が沢山設定があって、南はかなり行き当たりばったりに作っています(南の緑の人々の設定は、多少作り込みをしましたが)。

 

ろう者・ろう文化・CODA

五年ほど前に、参考文献に挙げた斉藤くるみ先生の講演を聴く機会がありました。その時まで私は、日本手話と日本語対応手話の違いも分かっていなかったし、手話と日本語が別の言語であることも理解していませんでした。同じ社会の中で生きる人達なのに、私はろう者の存在を物凄く透明化していたと気付かされて、とても恥ずかしかったのを覚えています。

CODA(Children of Deaf Adults)という人々の存在も斉藤先生の講演で知りました。親のどちらか、もしくは両方がろう者や難聴者であるという家庭で育った、聴者の子供のことを指す言葉です。音声言語と手話のバイリンガルであるということもできる一方で、彼らが幼い頃から二つの言語を行ったり来たりして育つこと、親からも家庭の外の大人からも通訳を期待されること、親と異なる第一言語を持つことになる可能性も高く、それゆえに家庭内での意思疎通が十分に行えなくなる問題があることなど、複数の言語の「あいだ」で生きる人に特有の難しさを抱える存在です。

セッケムは現代社会で言うところのCODAに当たります。

 

ファンタジー世界の中のろう者

ろう者やCODAをテーマにした小説に、丸山正樹『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』という作品があります。ジャンルとしては推理小説とかサスペンスになるでしょうか。タイトルの通り、手話通訳士が主人公の小説です。

この小説の少し前に、アーシュラ・K・ル=グウィン『西のはての年代記』シリーズを読んでいました。この二作品がたまたま頭の中で合流して、ふと疑問が生まれたのです。ろう者を物語にしっかりと登場させているファンタジー作品って、一体どれくらいあるんだろう? と。目が見えない人物とか、手足が不自由な人物とか、知的障がいのある人物とかは思い浮かぶのだけれど、ろう者が出て来るファンタジーって私は知らないなあ、と思いました。なので、書いてみようかなと思いました。

 

手話と文字

今のところ、日本手話を表記する文字は存在しません。斉藤くるみ『視覚言語の世界』では、世界的に見れば手話を表記する文字は存在しない訳ではないが、なかなか普及しないということが述べられています。何故なら近くにある音声言語の文字が、手話表記用の文字を駆逐してしまうからです。

せっかくファンタジー小説なのだから、そこは少し現実から離陸したいなあ、と私は思いました。なので、手話をある程度は表記可能であるという設定を作ってみました。何故その表記法は生まれ、発展したのか? どのようなルーツを持つのか? といった問いに答えを用意する際、ヒントにしたのは日本語と古典中国語の関係です。音が分からなくても読み解くことが可能な文字をヒントにして、緑の人々は手話の表記法を編み出した……という設定はどうだろう、と考えました。また牛耕法をヒントにして、一行ずつではなく面で表記する方法で手話を文字に落とし込んでいるという設定にしてみました。

この辺りは単なる「設定遊び」でしかないのですが、なるべく現実世界のディファクトスタンダードを疑う、崩してみる、ということを試みています。

 

性暴力・家庭内暴力

余りしっかりと書けず、心残りがある部分です。締め切りに負けたとも言う……。
何となくちらほら片鱗があるのですが、元々は瓊樹の過去をもっと詳しく説明する予定でした。彼女は過酷な虐待や性暴力のサバイバーであるという設定があり、それゆえにヒュイラハのことを他人ごとと思えずに助ける、という筋書きだったのですが、焦点化先がセッケムになったことでその辺りを書く時間が取れず、何となくぼかして終わってしまったな……という印象です。うう、悔しい。

書いていてしんどいので尻込みしてしまうというのもあります。永遠に尻込みしている訳にもいかないので、書き直すなり、瓊樹の過去の物語を書くなり、頑張ってみようと思います。

 

未艾って何者なの?

謎の存在でごめんなさい。ちゃんと理由はあるけど、この小説だけ読むと「ご都合キャラじゃん……」って感じでしかない。ええ、ご都合キャラです。

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