『とはずがたり』のこと

光文社古典新訳文庫から出ている、佐々木和歌子訳『とはずがたり』を読みました。かなり果敢な現代日本語訳だったのですが、現代語で感情移入しながら読める本になっていて、大変心揺さぶられる読書体験になりました。
『とはずがたり』は高校生の時に図書館で読んで以来、妙に記憶に残って(ある意味当然)、時折訳注を借りて走り読みしたりしていたのだけれど、こんな風に初めから終わりまで一気に読むというのは初めてでした。

余りに良かったので、勢いで講談社学術文庫の次田香澄『とはずがたり 全訳注』上下巻を買って読み比べたりとかしています。佐々木氏と次田氏とでは『とはずがたり』や後深草院二条に対する眼差しが少し異なっていて、そのズレも興味深いなあと思ったり……。

ということで、まとまらないけれど感想を書いてみたいと思います。

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罪と赦しのある地平へ――有栖川有栖「火村英生シリーズ」感想

年末年始の休みを使って、有栖川有栖「火村英生シリーズ(作家アリスシリーズ)」を読みました。随分以前から、「お前は絶対にこのシリーズが好きだから読め」と言われていましたが、漸く読みました。案の定大好きになりました。勧めてくれた周囲の皆様、ありがとうございます。

この1月11日に出た最新刊を含め、27冊のかなり大部なシリーズなのですが(そしてシリーズはまだまだ続くのですが)、作者の文章が非常に綺麗で読みやすかったこともあり、さくさくと読み終えました。

小説27冊を俯瞰した感想を書くなんてやったことがないので、ちょっとあたふたとしてノートなどを作ってみたりしました。楽しかった。
ということで、以下毎度のテンションがおかしい感想です。シリーズのあれこれについてネタバレがあります。長いし、ここで書き切れなかったこともあるので、もしかしたらまた別記事にするかもしれません。

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この愛情に名前は付けない――『天山の巫女ソニン』感想

菅野雪虫『天山の巫女ソニン』1~5巻を読みました。外伝が2巻ほどあるようですが、ひとまず本編を読み終えたということで。

読んで「!」となった小説はなるべく感想を書くことにしているのですが、今回はどう感想を書けば良いか迷います。ソニンやイウォル、ミン、クワン、イェラの成長が瑞々しい物語なのですが、心動かされたポイントは必ずしもそこだけではなく……。
ということでつらつらと考えながら感想を書きました。以下ネタバレがありますのでお気を付け下さい。

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オマージュであるが故の辛さ――綾辻行人『暗黒館の殺人』感想

今年の春先にTwitterで騒いでいましたが、綾辻行人の『館シリーズ』を読みました。ヲタク世界に足を踏み入れたきっかけは講談社ノベルスだった(はやみねかおる『虹北恭助シリーズ』から入って、文庫版のCLAMPの挿絵を手掛かりに田中芳樹を読むようになり、そこから小野不由美へと広がり……ってな小学五年生であった)ので、何だかこう、ホームグラウンドよただいま戻りました感に浸りながら楽しく読んでいたのです……が。
『人形館の殺人』辺りから「ん????」となり、『暗黒館の殺人』で無事目を焼かれましたとさ。あー……。
江戸川乱歩『孤島の鬼』が以前から好きだったので、『暗黒館の殺人』は二重三重にヲタク的なぱっしょんが爆発する読書になってしまいました。
以下ネタバレ交えつつ好き勝手に感想を書いてみました。(リアルタイムに書いていたんだけれど、納得いかずに書いたり消したりしていたもので)

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日本社会の加害者性とメトニミー――『月に吠えらんねえ』を読んで

清家雪子『月に吠えらんねえ』を読みました。凄まじい作品だった。
Twitterでも散々呟いているのですが、思った事は大きく三つ。

1.虐待の被害者でありサバイバーでもあり、同時に虐待の加害者・再生産者でもあった萩原朔太郎を、被害者・サバイバーとしての姿で(加害者性を無理なく排除した形で)救ってくれる奇跡の様な作品だった。

2.近代日本文学に於ける第二次大戦とは何なのか考えさせられる。また、近代日本文学を遺産として受け継ぐ現代日本人は、戦争礼賛=悪、戦争反対=善、という図式を問い直せるような社会を構築する義務があると思った。大政翼賛的な作品を作家の事績や全集から抹消する事は全く善ではない。しかし、それについて捉え直しや語り直しを行うには、まずはこの現代社会自体から見つめ直し、構築し直さなくてはならない、と感じた。

3.前述の1と2にも密接に関わるが、作家の人生に逆らう様な物語や、実際の作家が身を置いた環境には起こりえなかったifのエピソードを描き、それによって救済や社会への問い掛けといったものを描くといった点から、擬人化でしか到達出来ない境地を切り拓いた作品だった。

1と3については割とTwitterで叫びまくったので、2についてここで書いておきたいと思います(実を言うと1についても、萩原葉子の父としての萩原朔太郎という点から、あれこれ書きたいなあとも思うのですが、ひとまずそれは余力があれば、という事で……)。

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『無明長夜』あとがきに代えて――阿選と不条理文学

今日の十二花脣の大陸、当スペースに来て下さった皆様ありがとうございました。
二次創作同人誌って初めてだったのと、ティアや文フリの様なスローペース?な一時創作畑に慣れていたので、部数やら売れるペースやらが違いすぎて始終わたわたしておりました……。

差し入れもありがとうございます、美味しく頂きます!

はてさて、本を無事ヲタクの世界に送り出すことが出来ましたので、少し「補足しておきたいなあ」と思った事を書こうと思います。
あとがきを書くのは苦手なので書かないのですが(ヲタクの繰り言になるだけな気がして)、今回は二次創作という以外にも他人の褌で相撲を取った処も大いにありますので……(読んだ方は多分分かると思います)。

以降、同人誌のちょっとしたネタバレになりますので、『無明長夜』読後にお読み下さい。

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カミュ『異邦人』整理

カミュ『異邦人』は私の愛読書にして座右の書の一つですが、母に『異邦人』をプレゼンする為に書いたものが出てきたので、整形して載せます。

新潮文庫版は読みにくいことこの上ないので、高いですが是非、柳沢文昭訳『フランス語で読もう「異邦人」』(第三書房)で読んでみてください!対訳版の日本語の方が絶対読みやすい。

『カリギュラ』についても何かしら整理して載せたいなあ。

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